となりの芝生
EVENT REPORT |
数え切れない程の思い出をくれた、あの人へ… ◇ 水野あおい ◇ |
at 渋谷 ON AIR EAST 2000/ 3/20(MON) 18:30- |
アイドル・水野あおいのアイデンティティであった“ツーテールの髪型”と“フリフリの衣装”。この二つがステージ上の水野あおいから消えてしまったのは昨年の春のことであった。
そのときからこの日が来ることは予想していた。
だが、いざ目の前に現実を突きつけられると、やはりへこんでしまう。
幾度もこのような経験をしてきても、だ。
2月13日の夜のことであった。
最後のステージは、3月20日に『渋谷・ON AIR EAST』で行われるアルテミスプロモーション所属のアイドル全員参加のイベント『アルテミス祭り』の後に行われることが決まった。
それを知ったとき、私は「『アルテミス祭り』を昼に行うのなら、その後に何かライブがあると予想するのが当然じゃないか。あるとすれば会場の規模として、このような形であおいが“お別れライブ”をやることは予想できたはずだぜ。一体オレは何年アイドルファンやってんだ」。と、自分自身を嗤った。
3月に2回も上京するのは、時間的・体力的、そして金銭的な面でとても大変だ。何しろ翌日には仕事がある。帰るのは夜行列車かバスを使わざるを得ない。実にきついスケジュールとなる。
だが、これに行かないと一生後悔するに決まっている。
第一、これに行かなきゃ男がすたるじゃないか。電話で引退を知らせてくれた友人に頼んで、追加発売されるチケットを購入する事にする。
ビッグワンガムのカードのような、やたらと大きいサイズのチケットが手元に来たのは、それからしばらくしてのことであった。
「メンバーのみんな、ごめんね」と心の中でつぶやきながら、『SKiの春祭り・全員集合』コンサートが行われたこまばエミナースを後にして、井の頭線に乗り込む。駒場東大前駅からわずか一駅の神泉駅で降り、込み入った路地を抜け、ON AIR EASTへと向かった。
会場の前にはすごい人だかり。そしてすでに入場の列が作られている。その中には先の友人を初め、古くからのあおいファンの友人達の姿。「帰りはどうするの」などと軽く喋った後、今度は道路を隔てて反対側のam/pmの前で待っている編集委員のゆめのしずくさん、そしてこの為にわざわざ上京して来た、副編集長(当時)のしろくま☆しゃしょうさんとしばし話す。
日がどんどん暮れていき、肌寒くなっていく。だが、“あおい伝説”にピリオドが打たれるその瞬間を記憶にとどめようとするファンさんたちの熱気の前に、その冷たい空気はどこかに吹き飛ばされていた。
会場に入ると、元『ORANGE★IDOL』誌のライター、中村さんからサイリュームを手渡される。
客席を2つのブロックに分け、『楽園〜パラダイス〜』の「楽しいね」と歌うところで、ブロックごとに「楽しいね」とコールをかけること、そして手渡されたサイリュームをアンコールの時に光らせ、客席を一つの色に染め上げることを頼まれる。
よっしゃ、まかせとけ。今日のあおいは俺達に最高の姿を見せてくれるだろう。だったら一致団結して、みんなで最高のライブ空間を作ってやろうじゃないか。
水野あおいのイメージ・カラーである青の2本のサイリュームを持ち、私はそう考えた。
18:30を少し過ぎ、いよいよあおい伝説・最終章の幕が開けた。
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OVER TURE あおい伝説(インストルメンタル/オルゴールバージョン)
1 Super Happy World
MC
2 恋なのかな???
3 春の輝き
4 金のボタン
5 見つめていたい
MC
6 とまどい
7 がんばれMy Friend
8 夏の恋人
MC
9 秋風の午睡(シエスタ)
10 ブルートパーズの指輪
この日の彼女は普段とはまるで違っていた。
いつものように歌えないのだ。
普段ならばソフトクリームをペロリと食べるがごとく難なく歌っている曲が、ボロボロになってしまっていた。
決して、わっと泣き出してしまった訳ではない。自分の感情を制御出来なくなってしまっていたのである。
目の前で全力を振り絞り最後のコールを送り続けるファンさんたちの姿に、これまでの8年間にアイドルとして過ごしてきた時間の中で積もり積もったありとあらゆる思い出と感情〜喜び、そして悲しみ〜が心の奥底から一気に沸き上がってしまい、自らを制御出来なくなってしまったのであろうか・・・。勝手ながら、私はそう感じた。
衣装チェンジ Love Song(インストルメンタル/オルゴールバージョン)
11 Love Song
MC
12 あおい伝説
13 楽園〜パラダイス〜
14 恋のはじまり
MC
ライブも終盤になった頃、彼女は言った。
「まだまだ未熟者だったよ」。
「最後だからちゃんと歌いたいんだけど、声が出ないんだよ」。
それは私がステージの上で初めて見た、アイドル・水野あおいの陰からひょこっと姿を現した、大河内庸子の姿であった。
そして私は、そんな彼女を愛おしいと感じた。
15 あいのきせき
at 銀座三越屋上 (1995/03/21)_
撮影/ゆめのしずく_
16 夢見るハート
17 Dan−Dan
18 青い妖精(フェアリー)
ついにアンコールがやってきた。
カバンに入れていた例のサイリュームを光らせる。
あちこちでサイリュームを折る音。客席はたちまちのうちにコバルトブルーの蛍光に
包まれる。
アンコール
19 KI.RE.I(アコースティック・バージョン)
MC
20 NOBODY CATCHES ME!
21 Blue Bird
ダブル・アンコール
22 ホントの幸せ
MC
23 Love Song
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ライブが終わった瞬間、私の前にいたあおいファン達がお互いに肩を抱きあい、そして叫んでいた。
その輪の中で一人のファンさんが、つぶやくようにこう言った。
「俺ら、幸せだよ」。
そうだ。そうなのだ。この短い言葉こそが、この場にいた私たち全ての想いを表している。
そして、私は続いて思った。
「あおいファンは、今まで私が出会ってきたアイドル・ファンたちの中で、最高の連中だよ」と。
全てが終わったという安堵感からか、握手会の時にはいつものあおいちゃんに戻っていた。
ステージが終わった直後であり、興奮のあまりパンチ佐藤のごとく力んで言葉をかける私に、ぽけっとした調子で「何言ってるんですかぁ〜」という感じで返されてしまった。
でもいいのだ。最後にいつもの“水野あおい”とおしゃべりして、お別れできたのだから。
私は会場の前で一枚だけ記念写真を撮り、関西在住の友人4人と共に大阪行きの夜行列車に乗る為品川駅へと急いだ・・・。
水野あおいがデビューした当時は、おニャン子クラブが解散して以来の「アイドルはシロウトでも出来る」と言う、大きな勘違いが業界の間でまかり通り、その結果としてアイドルと言う存在が軽蔑視されていた、いわゆる『アイドル・冬の時代』であった。
しかし現在は昔と形の違いこそあれ、アイドルという存在は復権を果たしている。
だが、それまでの長い期間いつもステージの上に水野あおいが立ってくれていたことを、そして小さな身体を張り、本物の『アイドル』としてずっと頑張ってくれたことを、私たちは決して忘れてはいけない。
そんな彼女に、私は心から「ありがとう」と言いたい。
そして、アイドル・水野あおいのことを、ずっと忘れないでおこうと思っている。
【編集長■ブルーウェイブ】
「元気だして〜昔のままで〜」 あおいちゃんの楽曲ではもっともゆったりとしたバラードで、私が一番好きな曲である。
これを聴いていると、まさに天上の音楽という感じがしてくる。下界の喧噪は忘れ、青く澄み切った空の中で、時の流れは止まっている。なにより、あおいちゃんの歌声はこの曲に大変ふさわしい。透明だが決して冷たくはなく、ふわふわした感触は、他のアイドルには決して求めることのできない魅力である。
間奏のギターが止み、サビが戻ってくると天上の音楽も終わりに近づく。
at 池袋パルコ屋上 (1996/08/18)__
撮影/ゆめのしずく__
「あと少しだけでも、そこにいたい」という気持ちにかられる。最後の一音が消え、私たちは再び、喧噪の中へと戻される。
「水野あおいの世界」というのは、このようなものだったのではないだろうか。
あおいちゃん自身の考えるアイドルの理想、ファンの気持ち、そしてプロモートする側の愛情が一つになって成り立ってきた。
そのような世界も、いつまでも同じ状態でいられるはずはない。私は、あおいちゃんの才能が「アイドルの枠」にとどまらず続いて欲しいと思っていた。この歌唱力と声質を生かして欲しいと。
しかし、所詮は勝手な願いに過ぎなかった。水野あおいは「アイドル」としての存在を全うした。考えてみれば、それがあおいちゃんなのである。
3月20日、ファイナルライブの日。水野あおい最後の日が来た。
私たちは最後にいったい何ができるのだろうか。あるファンさんの指導による「楽園〜パラダイス〜」での応援、アンコールでみんなが青いサイリウムを…。最後だから特別というより、今までの集大成だったと思う。
当日配布されたパンフレットに、マネージャだった喜田さんの言葉が綴られている。
水野あおいのパワーの源は皆さんの応援にありました。
世界一の応援と世界一の歌い手の最後の共演です。
これを読んだのは数日経ってからだが、思わず涙があふれてきた。
本当に、素晴らしいファンさんたちと一緒に時を過ごしてこれたと思う。
あおいちゃんを応援して来れて良かったという気持ち、
同時に、あおいちゃんのファンであることを誇りにできる、と。
【編集委員■ゆめのしずく】
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