last update:1999/07/03  

となりの芝生


『真夏の光線』 モーニング娘。 Single 99.5.12



 福田脱退後、最初にリリースされるシングル。アイドルのアティテュ−ドとしては、グループのスタート時に戻っている。
 すなわち歌詞に反映された世界観において、今まではかなり濃厚だった“性愛的なニュアンス”が払拭された。
 つんくのアイドル「理解」の並々でないのが明らかなのだが、CoCoの『なぜ?』にもあるような、リスナーの芳しくない自己評価に寄り添ったヒロインの造形がなされてもいる。
 さらにベテランのファンによって、曲調が初期松田聖子風との指摘もある。以前の(ほぼ)ツートップから、安倍なっちの(ほぼ)独裁的パート割になったため、彼女の持つ小泉今日子風の声質が前面に出ることともなっている。
 しかしながら楽曲としてかかる現象的アイドル理解によるだけのものかといえばそうではない。つんくの歌謡曲理念によるアイドル像は、娘。内ユニット・タンポポとしての前作に頂点を極めたが、チャートの成績は期待したほどではなかった。
 今回の方向性の変化は、ヴォーカリストとしてのつんくの愛弟子がグループを去った(彼としては特に)痛手以上に、この『Motto』の(娘。のレヴェルとしては)不成功から急速に転換を図った意味合いが強いと思われる。
 その意味で戦略的後退とも呼べるのだが、依然戦意は旺盛である。
 そもそも別に高度な音楽教育を受けたわけではない、ふつうの日本人ないしアジア系女子のコーラスを商品として編曲させて、このプロデューサーよりいささかでも抜きん出ることのできる人間は地上に一人もいないのではないか。
 何の予備知識なしに聴いてもそれくらい言えるのではないか。ヴォーカル・アレンジの完成度はこのようなものである。
 今回楽曲アレンジは『Motto』を担当した河野伸に任されている。フュージョン系のグルーヴィーな感覚を、ドメスティックで地に足のついた、気のおけない歌謡曲としてまとめあげる彼の才能は、つんくの理念に沿ったものである以上に、評価すべきことと思われた。
 ファンク・リズムという点では『サマーナイトタウン』以来の前嶋康明編曲を継承しているが、曲調に左右されるとはいえベースラインのかっこよさとか、パーカッションの使い方とか微妙に、この人の方が良い感じなのだ。
 「前文お許しくださいませ」と始まり「あらあらかしこ」と終わる風雅な女性の手紙(現在では絶滅)のように、ハープシコード風の音が前奏後奏で締めくくりをつけるのも、なかなかにありがたいことである(笑)。
 何にせよ全体としてハッピーで祝祭的な気分に彩られた本作は、新生モーニング娘。の門出を祝うとともにアリーナ級となった、来る今夏のライヴ・ツアーを大きく盛り上げてくれるに違いない。
 90年前後といえば日本では乙女塾の勃興期であった(?)が、UKではこのような跳ねるリズムのアコースティック・チューンが流行っていたものだ…という感じなのがC/W曲である。で、合唱編曲法としてはCoCoに近いのである(笑)。
 タイトル曲で出番の少ないメンバーにもきっちりソロ・パートを割り振って、そのファンの不満をいささかでも解消してやろうという心遣いがうれしい。その中に自己の理想を実現していくヒット曲を追求する実務家であると同時に(作詞家として当然ではあるが)人情もわかった男である。
 尚、「やりたい!」(聴かないと謎)についてはオリコン・ザ一番5.17号参照。

[兵庫県/みんあみ] 




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