となりの芝生

  CONCERT REPORT 

 丹下 桜 
ミレニアムコンサートツアー“未来からのエアメール・FINAL”
at 渋谷公会堂 2000/4/18(TUE) 19:00-

 『カードキャプターさくら』というアニメをご存じだろうか。その主人公・木之本桜の声をやっているのが丹下桜さんである。
 「はにゃ〜ん」というセリフも一部で有名。
 二月のはじめ、桜さん直筆のメッセージがコナミのホームページに載った。「この春をもってアーティスト活動を終了する」との内容だった。今ひとつ、はっきりしない発表ではあるが、とにかくこの渋谷公会堂のコンサートへ行くことにする。
 渋公といえば、毎年SKiの卒業式が行われる会場。その2階席へ向かう。初めてである。しかも満員(^^;。客電が落ち『天星小輪』がイントロダクション風に流れてくる。
 桜さん登場。いきなり『Neo-Generation』から、CoCoなど、乙女塾系のコンサートと変わらないノリである。大人数のコールの音圧が懐かしい。『Wonder Network』でのかけ合いも、ライブならではの楽しさだ。

 『FREE』のようにおとなしめの曲では、ファンさんの持つサイリウムが美しい。
 私は、桜さんのコンサートに来るのが初めてということもあり、じっと聴き入る。
 改めて曲の素晴らしさと声の美しさを実感した。神秘的なメロディと前向きな詞が交錯して、とても気に入っている曲だ。
 MCでは想い出を語るようなところも多い。ファン歴の短い私にはよく分からない部分もあるが、長らく応援してきた人にとっては感慨深いものなのだろう。

 楽しい時間は速い。終わりに近づき、『CATCH UP DREAM』になるとファンもヒートアップ。私も全力で跳ぶ。CoCoで言えば『夢だけ見てる』と同じような位置づけになるかもしれない。その勢いで『Be Myself』。かけ声と声援の中、本編は終了。

 「アンコール」が繰り返され、再び桜さん登場。背中に羽をつけ、天使のごとく白い衣装を身にまとう。キーボードのみをバックに『tune my love』を静かに歌い上げる。一音一音、確かめるように。声の質がとてもピュアなものとなっていく。
 そして、桜さんが「お休みする」といった内容のMCになる。これからはホームページを開設し、自ら発信していくという。今までのような活動は難しいが、本当に必要に人だけに届けばいいと考えているそうだ。インターネットの可能性を信じ、ファンへの心遣いが嬉しかった。

 いよいよ最後の曲『未来からのエアメール』。これは二月に出たシングルで、桜さんの想いがいっぱいにつまっている。しかし、最後であることを感じさせない、
 いや最後だからこそなのだろうか、桜さんの歌声は今日のどの曲よりも美しかった。
 極上に純化された響きが会場を包み込んでいた。と感じたのは、曲も終わりに近づいた頃だったと思う。本当に美しいものは、それを意識させないのであろう。
 桜さんはかつて、自らのラジオ番組で「ボイス・セラピスト」になりたいという夢を語っていた。私はふとこの曲で、とてもリラックスしている自分に気づいたのである。日頃のストレスも緩和されたように感じた。

 桜さんを見守るファンの心、そして桜さん自身の想いで会場が満たされていた。
 今までとは明らかに違った拍手が聞かれる。「桜さんありがとう」そんな気持ちのまま、自然とスタンディング・オベーションになる。私は、この場にいることができて本当に良かった。

 桜さんもステージを去り、客電もつくが誰一人として帰る人はいない。アンコールが繰り返される。
 やがて桜さんが三たび登場。ゆっくりと、そして会場の拍手を制止するジェスチャーをしながら。静まったところで突然歌いはじめた。それは『Silent Song』(※)。
 もちろんア・カペラだ。実は、私が声優の歌を聴くようになってから最大の収穫がこの曲なのである。とても嬉しいと同時に、桜さんの想いを心で感じることができた。

   いつもそばにいるよ 覚えててね
   あなたを想ったら 優しい歌になるの

 もし、実際に聞くことができたら悲しいだろうなと思っていた。しかし、桜さんの歌にはそんな単純な感情では説明できない力があった。

 桜さんの声を聞ける日が再び来ることを信じている。これだけの才能を埋もれさせてしまうのは、あまりに残念だ。
 これから「癒し系」「医療系」に向かうだろうと言っていたが、どういった形であれ、桜さんが一人でも多くの人にとって大切な存在となることを、願わずにはいられない。

 追記
 この原稿を書いた後、桜さんのホームページが公開されました。
 とても可愛い感じに仕上がっています。ぜひご覧ください。
 URLは、http://www.wonder-net.net/ です。[10/15 URL変更により更新]

【編集委員■ゆめのしずく】 

 (※) 作詞は丹下桜さん自身による。タイトル通り静かな、そして美しい名曲。
    実は、水野あおいちゃんのファン有志によるミニコミで、私はこの一節を
    紹介している。締切の都合でコンサート当日、行く前に書いていた。
    すると、この部分が最後に歌われたのであった。
    偶然の一致(c)とはいえ、実に不思議なこともあるものだと思う。


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