《道化師と少女》
そもそも理由なんてものは、あとづけにすぎない。
ましてや、人を好きになるなんて。
アイドルを見始めてから、イチ押しってものにはまったことがなかった。
全体を楽しむのが好きなのでピンのアイドルには興味はうすく、グループがいつも好き。
あれもこれもありってのが好きなのです。
とはいえ、グループ内に押す娘ってのはとりあえず何人か作る。
新2期からも一人欲しいよね。
本当になんとなくだった。
もちろんカワイイってのは絶対だけど。
単なる上位押しだったのが、気づいたら鉄板イチ押しになっていた。
いいわけがしたいから精一杯理由づけしようとする。
まったく無意味なのにね。
だって、コンサートやイベントでの反応見てれば言葉はいらないって。
みんなわかってるって…。
彼女の前では僕はピエロ。
だって、笑顔がみたいじゃん。
本当はあんなポーズをとったり、あんなことを話したりしたい。
恐いんですよ。
そんな自分が恐い。関係がくずれやしないか恐い。
恐怖、恐怖、恐怖、やっぱり恐怖。
何をおびえてんだか。
くだらないことをしている自分が好き。
彼女は、そんな人は好きなのかな?
ピエロはお客をあっためるのが仕事。
ピエロは恋をしてはいけない。
ピエロは踊り娘を好きになってはいけないのです。
いつの日か、どこかの町の朝一番の汽車で君を連れ去って逃げたい。
僕はピエロのメイクを落とす。
そこからが本当の物語のスタート。
そのためには、まずは好きって言えるようになろう。
「本田博子が好き」
うそだらけの僕の中で、このことだけが絶対唯一の真実なのだから…。
[文:東京都/鈴木康男 {<青木通信網>網長(編集長)}, 写真:みのる]
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