last update:1998/07/15
ハッ!Train


《BW君のよもやま話 〜君がやらずして、誰がやる〜》

 数々のバラエティを誇るSKi楽曲群の中でも、情緒的な楽曲を担当しているユニット、[静寂向上委員会]。
 初代リーダー・滝本久美、二代目リーダー・篠原智子。この二人に共通するキャラクターは「地味だけど、通好み」というものであった。ステージの中央で背筋をピッと伸ばし、マイクを大事そうに握りしめてヴォーカルを取る真摯な彼女らの姿を見るたびに、私の心の中に快い緊張感が走ったものである。
 現在の静寂でメインヴォーカルを取るのは、三代目リーダーである松井陽子である。P会報(97年9月号)に、リーダーとして8月公演でヴォーカルを取っている彼女の写真が載っているが、本当に良い表情をしていた。彼女は「地味だけど、通好み」という、歴代リーダーのキャラを見事に踏襲し、静寂のカラーを引き継ぐことに成功している。
 私は、そんな松井陽子という娘が、1998年の制服向上委員会の命運を握ると考えている…。

松井陽子  あの瞬間、彼女の脳裏に一体どのような感情がよぎったのであろうか?
 昨年6月に行なわれた《真夏のプロローグ・ツァー》オープニングでの、メンバーが入れ代わり立ち代わりしてのごあいさつ(「講演会」なんてオーバーな名前になっていたが…)で、自分の家族について話している時に突然ぽろぽろと涙をこぼしたあの瞬間。
 おりしも同期であり、一番の盟友であった小野田亜美が休業した直後のことである。彼女にとってSKiの活動を続けていくことに対し、あらゆる面で逆風が吹きつけたこの時期、不覚にもファンさんの前で自らの感情をぽろっと見せてしまったのであろうか。
 その時私は、「おいおい、陽子ちゃん、これで大丈夫なのかよ…」と思った。何があっても不思議ではないこのグループ、私の心の中に大きな不安がよぎる。そして…
 「このままじゃ、新三期生が誰もいなくなってしまうぞ。それでいいのかよ、オイ!」とも思った。
 だが、彼女はここで投げてしまうことなく、頑張ってくれたのである。
 そして彼女は、まだ芸能という世界に、そしてSKi独特のファンさんとの世界に慣れていない、入会して間もない四期生を引っ張っていき、それらを一つにまとめ上げ、さらには、四期生たちを率いるべく再編成された、一つの伝統のあるユニットの長になることができたのである。

 松井陽子の最大の特徴は、とにかく「何事においても一歩引いている」という点に尽きる。彼女のインタビュー記事やミニコミの自筆アンケートなどを見ると、「私はSKiの中のワン・オブ・ゼムで良い」と言いたそうなくらい、自らを謙遜しまくったフレーズの連発である。

「私なんてブスでチビでスタイルサイアク、
 歌も下手でその上上手に歌えなかったし、

 絶対に命かけて(新メンバー募集のオーディションに)落ちると思っていたんです。」
〈おしゃれ制服向上委員会図鑑7++〉より

「この歌もダンスも下手くそな私が、新・静寂向上委員会のリーダーになってしまいましたぁ〜!!」
〈P会報 vol.23〉より

 ここまでくると、「何もそこまで自らを否定しなくてもいいのに…」とすら思ってしまう。
 だが、それが現在の、メンバー個人の突出したキャラクターを殺す方向に向かっている、SKiのプロデュース方針において幸いしたのである。
 しかし、果たしてそれだけで彼女は現在の位置を得ることができたのであろうか。いゃ違う、彼女の本当の実力・本当の魅力は別のところにあるのではないかと思う。
 P会報やミニコミのインタビューでの彼女の自筆記事は、いつも細かい字で丁寧にびっちりと書いてあり、その横には必ずといっていいほど、可愛らしい制服姿の“陽子スマイル”の自画像が添えられている。
 おそらく彼女は、人に「自分自身を伝える」ということが、根っから好きなのだろう。勝手な想像ではあるが、「授業中に手紙を離れた席の友達に回し、先生に見つかって怒られた経験も一度や二度ではない」だろうな、なんて思う。
 そしてその文面からは、自らの活動に対する彼女の真面目さがにじみ出ている。そこから、静寂のステージでマイクを握りしめ真摯な表情で歌う彼女の姿がオーバーラップするのである。そんな丁寧さとキメの細やかさ、そして真面目さが、ファンをつかんで離さない魅力であり、SKiのフロントメンバーに抜擢されることになった最大の理由だと私は考える。

 いよいよ今年は、SKiのステージで正面に立つ立場となる。
 センターに立つ本田・橋本・井上のメイン・ヴォーカルを、久保愛と共にサポートしなくてはならない。当然彼女がソロを取る機会も今までよりもずっと増えることであろう。彼女の立場はもう、SKi全体の中のワン・オブ・ゼムではない。ライブ・アイドル[制服向上委員会]の堂々たる顔なのだ。
 そして、もうひとつ重要な役目として、SKiの牽引役である先述の3人と後に続く四期生・五期生との中間に立ち、相互の意志を疎通させるという役目が、「ただ一人の新三期生」である彼女には課せられているのである。
 次世代へと続くSKiメンバーへと、先輩たちが培ってきたものを伝え教えていき、逆に後輩らが持っているフレッシュな感覚をグループ全体に活かしていく。また、集団での活動でどうしても起こりうるメンバー個人と個人のいさかいを、リーダーである本田博子とともに上手に解決していかなくてはならないのだ。
 どちらも、制服向上委員会というライブ・アイドルグループの将来を作っていくには、避けては通れない重大なる役目である。
 この二つの大変な役目、松井陽子がやらずして他に一体誰がやる。

 がんばれ!松井陽子。
 君のその小さな肩に、制服向上委員会の将来がかかっている。
 そして、その小さな肩の後ろで、盟友であった小野田亜美・佐藤幸香の二人が、たくさんのファンたちが、見えない力で君を支えてくれているのだ。
 そんなたった一人の新三期生を、厳しさと愛情を持って見つめていたいと思う、今日この頃である…。

▲この文章は、98年1月に書かれたものです。
[文とカメラ:大阪府/Be-Wave]  


◯参考資料:〈おしゃれ制服向上委員会図鑑7++〉 SKi図鑑編集部 発行
      〈P会報 vol.23〉 ファンクラブSKI 発行

# 文中、敬称略で書かせていただきました。



98年1月号目次