last update:2000/05/10  
◇ 好評連載 ◇
知恵之輪士のSKiを読む!


第十九回 学芸会だっていいじゃないか

小田さおり&久川由美子
撮影/ゆめのしずく 

 今年の夏の甲子園は、私の地元、群馬県の桐生第一高校が優勝した。
 今まで群馬県勢からの優勝校は一校も出ていなかったので、甲子園初制覇の快挙に、うちの田舎は大いに盛り上がっていた。
 私はどちらかと言うと、プロ野球よりも高校野球の方が好きだ。最近のプロ野球は、TV中継のおかげで家に居ながらにして観戦できるようになったが、その反面、球場で観戦する時の臨場感を味わうことが出来なくなってしまった。モニター越しに選手と距離を置いて見るようになり、解説者の説明を聞きながら試合を観戦するようになると、第三者として客観的に試合を見るようになってしまう。
 サッカーの場合はよりその傾向が顕著で、Jリーグ設立とともに メディアに大量の情報が流れて、知識の方が遙かに先行してしまった。そしてワールドカップ予選では、皆TVの前でにわか批評家と化していた。
 しかし、高校野球は、それぞれ地区予選を勝ち抜き、その地区の代表として甲子園に進む。観戦者は、自分たちの代表として、それを応援する。試合をしているのは、我々の代表であり、応援することで自分たちも試合に参加しているのである。
 そうしたスポーツの持つ高揚感を味わいたいのなら、プロよりも高校野球の方がより楽しめると、私は感じている。

 そんな訳で、今年は地元が勝ち残った事もあって、高校野球を例年より多く見たが、選手の技術水準が高ければ、面白いゲームになるかと言えば、そうとも限らない。
 実際、プロと比較すれば、どの試合も一つ一つのプレーのレベルは落ちる。しかし、一点をめぐる攻防という「野球のおもしろさ」は十分に楽しめる。選手の技量とゲームの面白さは、必ずしも一致しない。
 九回裏ツーアウト、何でもないフライをエラーしてしまい、一点差に詰め寄られてしまった。プレーとしては、実につまらないプレーだが、ゲームとしては一打逆転の面白い展開。なんてこともあり得る訳です。
 確かにプロの選手の卓越したプレーは、それ自体がとても魅力的なものだが、それが野球の全てではない。個々のプレーと、試合全体の流れ。二つの要素があると考えるべきだろう。先に述べたように、ブラウン管越しに客観的に試合を観戦すると、どうしても勝ち負けと技術的な側面に目がいってしまいがちになる。実際に私の周りには、巨人の勝ち負けと、松井選手のホームラン以外には興味がないという奴もいる。確かにそいつは巨人ファン、松井選手のファンとは言えるかもしれないが、断じて野球ファンではないと思う。本物の野球ファンは、高校野球でも、草野球でも楽しめるものです。

 さて、野球は客観的なプレーの善し悪しと、ゲームとしての面白さは別だと論じてきた訳ですが、絵画や演劇、文学、舞踊、彫刻、陶芸、音楽・・・およそ芸術と名の付くものは単純に技術が高ければ、作品も良いとは限らない。花を美しいと思う心、海の青さを美しいと感じる心。こうした感性は、技術とは全く関係がないが、そうした感性を抜きにして芸術を語ることは出来ない。あらゆる芸術活動の動機となりゆるのは、そうした感性であり、技術は常に二次的なものでしかない。
 芸術家が花を見て、それを絵に描こうとするとき、彼が見て、描こうとするものは“美しい花”ではなく、“花の美しさ”なのだ。
 しかし、自分の目にした芸術を、別の人にも伝えようと考えるなら、その時初めて客観的に見ることが要求される。プロはそうした第三者に対して、芸術と言うものを提示していくことを選んだ人々だ。
 だからプロには技術が要求される。
 それが本来の自然な芸術の姿と言える。
 私は今までに何度かSKiのステージを「学芸会」といわれるのを聞いたことがある。なるほど、制服向上委員会のメンバーのほとんどは学生な訳だから“学芸会”とは言い得た表現だが、たいていの場合は技術的未熟さへの中傷であることが多い。
 しかし、あくまで一人の客として、私の意見を言わせてもらえば、別に学芸会だろうが、プロのコンサートだろうが、楽しめればそれでよい。そこに閃く何かを感じ取れれば、一人の客としては、それだけで満足だ。
 私という個人が、その感受性に従って、それを芸術として捉えるならば、技術論など必要ない。
 SKiがそうしたスタンスで活動しているのは明白だ。ダイヤの原石を磨くように、メンバーの持つ個性の輝きを引き出そうとしている。
 今はまだ技量不足の学芸会であっても、一人の客としてはそれでかまわない。
 そんな学芸会だからこそ、みずみずしい感受性が、そこに感じられるのである。

[群馬県/知恵之輪士] 

伊藤嘉代子&中井祐子
撮影/ブルーウェイブ  



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