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◇連載コラム◇
知恵之輪士のSKiを読む!
くじら
 第23回 SKiにできること

 潜水艦グリーンビルとえひめ丸の衝突事故は、今の世相をよく反映した事故のように思える。今回のような場合、民間船は潜水艦に注意を払う義務はないようなので(そりゃ、敵に見つからないように隠れているのだから、気付けという方が無理)、全面的にグリーンビル側の過失ということになる。
 問題は、その時艦長を務めていたワドル氏が、事故の真相について全く証言せず、家族への謝罪もなかったことだ。アメリカではこういう場合、下手に謝ると裁判で不利になるので無闇に謝らないらしい。個人の利益を守るというアメリカの考え方は、それはそれで納得のいくものだ。利害関係を裁判によって公正に調整する。それは法の理念に則ったことだといえる。
 しかし、今回のワドル氏の対応は、艦長として、つまり最高責任者として潜水艦に乗り込んでいたのに、その潜水艦が起こした事故について全く話そうとしないのだから、艦長としての任務を果たしていないのではないだろうか。私にはワドル氏が艦長としての一切の責任を放棄して、自分の利益の方を優先しているように思える。ワドル氏がこういう態度だから事故が起きるわけで、彼には再発防止の意味からも真相を証言してほしかった。
 さて、冒頭でこのえひめ丸の事故が今の世相を反映していると書いたが、この事故は、ここ数年日本国内で新聞やテレビニュースを賑わせている一連の事件と本質的に同じ体質を持っているのではないかと思う。警官の不祥事・医療ミスによる死亡事故・政治家の汚職等々、いずれの場合も事件を揉み消そうとする隠蔽工作が行われたことが大きな問題になった。そこにある責任逃れをしようとする体質によって、自分に与えられた任務よりも、自分個人の利益を優先してしまっている。
 こうした警察・医者・政治家たちのモラルの低下というものが、現代の抱えた大きな問題になっている。もっとも、医療ミスなどは昔からあっただろうし、警官の犯罪や政治家の汚職も今に始まったことではない。しかし、江戸時代の侍には主人に忠義を尽くすことが美徳という精神があり、戦時中は国のために戦って死ぬことが美徳とされ、戦後は会社のため、家族のために働き過ぎるほど働くことが当たり前で、そうした考え方はほんのついこの間まで続いていた。そうした価値観が一般的だった時代には、警官や医者としてのモラルは維持されてきた。
 しかし、近年欧米的な個人主義が文化とともに流入してくると、もっと自分の人生を楽しもうという若者が増えてきた。特にバブル崩壊後、会社のために自分を犠牲にするような生き方は古くさいものでしかなくなってしまった。今は、自分のやりたいことをやり、自分らしい人生を送るのがカッコいいのだ。そうなると、警官の市民を守る義務、医者の患者の命を守る義務も薄れてしまいやすい時代になりつつあるわけだ。現代は、モラルの低下に対する歯止めがなくなってしまっているのが大きな問題となっている。この問題は、警官や医者に限ったものではない。先日、成人式の会場でクラッカーを鳴らして書類送検された新成人のニュースがあったが、近年の若者のモラルの低下は著しい。
 SKiの活動も、タバコのポイ捨て禁止や公共施設における携帯電話の使用規制などはモラルに関わる問題といえる。携帯電話規制については署名を募って条例化を都に申請したりしたが、なかなかうまくいかないようだ。以前高橋プロデューサーが、「やはりSKiのようなアイドルグループでは活動には限界がある」と言っていたのを思い出した。
 しかし、確かにそうかも知れないが、政治にできることにも限界がある。例えば、少年犯罪の凶悪化という問題がある。今の少年法では刑が軽過ぎるので、成人並みに刑を重くするべきという意見がある。一方、刑を重くすれば犯罪が減るのかという疑問も広くいわれていることだ。法で何かを禁止することはできるが、それが直接モラルの向上には結びつかないわけだ。
 数年前、Jリーガーの前園選手が「いじめ、カッコ悪い」と言うCMが放映されていた。いじめが法律で規制し切れない問題だけに、人気Jリーガーを起用してアピールしなければならなかったわけだ。そういう意味では、アイドルであるSKiは、逆にモラルを訴えていくうえで有利な立場にあるといえる。最近流行っているウルフルズの「あしたがあるさ」などは、聞いていると前向きになれる歌だが、音楽というものは人の情感に直接訴えるものだ。それだけに、モラルを問うていくうえでとても有効な手段といえる。ビートルズが未だに絶大な人気を誇るのも、ビートルズの音楽が単なる娯楽というだけでなく、人々の心に訴える力を持っていたからで、だからこそ1つの時代を作ったわけだ。多くの宗教が芸術と深く結びついているのも、芸術が人の心を動かす力を持っているからだ。キリスト教のマリア像は、母親の子供に対する愛情、無償の愛について、言葉で説明するよりもずっと多くのことを語ってくれる筈だ。インドではこうした芸術は“マルガーン”と呼ばれ、娯楽のための芸術とは区別されてきた。
 そこで、SKiの最も基本的なコンセプト、制服の向上に立ち返ってみると、制服をよりよく変えていくということで、学校生活をより良いものに変えていこう、というものだ。SKiは始めからそうした意識向上を目指していたわけで、そこが金儲け主義の他の歌手とは違う点で、私は高く評価している。
 急速にモラルが低下しつつある現代において、SKiにできること、SKiだからこそできることは多いのではないだろうか。私はSKiの地道な活動に期待し、応援している。これからも、清く正しく美しく、愛と勇気と思いやりを人々の心に伝えてほしいと思っている。

【群馬県/知恵之輪士】 


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