◆これが、KS3の問題提議◆ 編集委員室から 表現者として大切なこと 93才まで現役であり続けた、日本を代表する指揮者・朝比奈隆。 その朝比奈氏が、生前にこんなことを語っていた。「ステージの袖に立って歩き始めた時から入場料のうちですからね」。視覚的な部分でもお客さんに不快感を与えてはいけないという話だったのだが、このような意識はとても大切だと感じた。 自ら創立した大阪フィルハーモニー交響楽団を、半世紀以上にわたって育ててきた朝比奈氏のモットーは「一度でも多くステージに立つ」。晩年は聴衆が総立ちになることで話題を呼んだが、それは「作品に対する謙虚さ」「小手先だけのことはしない」といった姿勢が支持されたのだと思う。“うまい”演奏をする人はむしろ他にたくさんいる。だが、音楽を通して得るものの大きさに人々は打たれるのである。 最晩年、「日本一の音」と賞賛するNHK交響楽団を指揮したときに、楽員からメッセージカードを贈られた。それを、終生大切に持ち歩いていたという。長らく想い続けた人から届いた恋文のように、と。 訃報に接したとき、真っ先に思ったのが「もう一度、聴いておけばよかった」。人は生き続ける限り「心」の中に存在するのであろう。
(編集委員◆ゆめのしずく)
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