last update:1999/04/29
BY SKIノベライズ委員会
多摩川の河原は石畳だった。まるで神社の境内のように敷きつめられていた。
護岸工事が完璧に進んだ東京近郊の河原で、これほどの天然の玉砂利が残されたところは珍しい。
その石だらけの河原で、『お月見の会』が行なわれた。
私は当然、寄合歩のチームで、彼女のその豊かな個性を楽しみながら、彼女との最初の出会いを思い出していた…。
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撮影/山野麦文
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あれは昨年の三月、“新人さん紹介”のコーナーで、歩ちゃんを見た時だった。
「自分の中に異星人が住んでいる。名前はルルとララ」。と、いう話に仰天させられた。
が、この時点で私の関心を引いたのは、その容姿であった。後日になって、その個性と言うものが、いろいろと話題に上る彼女だが、この時点では、その大人っぽい容姿に魅かれた。
彼女は、ちょっと見には短大生に見える。町中をリクルート・スーツを着て闊歩し、就職活動に励む学生と重なって見えた。
その理由が、単なる容姿の相似にある訳では無いことに私が気づいたのは、しばらく時間が経過してからのことだった。
彼女のステージでの歌と踊りには、あるひたむきさがある。
そこには与えられたチャンスを最大限に生かそうとする意欲が見受けられる。
とある街角で、中野成子社長と、本田博子にスカウトされたことから彼女の生活が大きく変わった。
レッスン生として同期に入った三浦恵里子とともにレッスンを積み、着実に基礎を固めてから、我々ファンの前に現れた。
彼女の振りはキマッている。身長が162センチなのに、大柄に見える彼女の振りのダイナミックさが、客席から見ている我々に、そう思わせるのかも知れない。
それは、舞台で目立つという一点において、その個性とともに強力なベクトルを我々に向けて放っているという点で、かつての菊地彩子に匹敵する物がある。
寄合歩にはいくつかの持ち歌が存在する。「恋は雪のよう」は、かつて斉藤美緒子が歌っていたが、寄合歩はこれをしっとりと歌い上げる。彼女には、ポップス系と演歌系を折衷してミックスしたような魅力がある。
そんな彼女に与えられた新曲「疑問」は、その魅力を引き出す最も良い素材であろう。
今の段階で、彼女にはどんな歌が合うのかは分からない。と、言うよりも、今後も答えは出ないであろう。
“アイドル”という公式に当てはめたとする。左辺に寄合歩という“X”は存在するが、右辺にそれと釣り合うだけの文字と係数を入れることは出来ない。彼女には“方程式”は成立しないのである。
それでも寄合歩がSKiというアイドル・グループに存在し続ける最大の理由は、彼女の存在自体が、一抹の“清涼感”になるからであろう。市販の清涼飲料水に例えて言うのならば、抹茶に、ハーブを大幅に足したような爽快さがあるドリンクのような物である。
彼女のMCは、もはや有名である。上野・水上音楽堂でのイベントで「花火やりたいですね」。と発言したことにも見られるように、彼女の感性はいつも自然と連動している。
私は、当初彼女は東京から少し離れたところに住んでいると思っていた。しかし、実際には都市化された至近の距離に在住していると言う。その彼女が、どうして自然の流れに敏感なのかと思ったが、月見の会の時「私の両親は、沖縄県出身」と聞いたときに、すべて納得した。
島津の侵攻以前、南シナ海を縦横無尽に走り回った商易国家・琉球の血が脈脈と流れているのであろう。
余談ながら、私はこれまでの人生で幾人かの沖縄県人と出会った。彼らの大半が南国的気質にあふれた人の好い人物であった。
私は、沖縄の人間が好きである。歩ちゃん自身は東京の出身であるらしいが、その性格や行動は琉球民族そのものである。
どうか、先祖から受け継いだすばらしい気質を失わずに、がんばってほしいと思う。
月見のときは新月であったため、天空は真っ暗であった。夜のとばりは完全に下りていた。
その中で、格子戸模様に朝顔をあしらった、薄い青色の浴衣を着た歩ちゃんの姿は映えていた。
上野でのイベントのとき、三浦恵里子が「ソフトクリームを朝食にしている」と言ったとき、「食生活乱れてますねぇ」とたしなめた。それだけの健康感覚がある彼女は、いつも緑黄色野菜を食べているのか、肌はとてもみずみずしい。何よりも、その行動自体がパワフルなのだ。
妙なMCを言っても嫌みを感じさせないし、その内容が逸脱しているかのように見えて、実は、微妙なバランスが取れていて、ステージの進行へ見事に整合されていく。
彼女は理科が好きなようだ。でも、計算が苦手のようだ。彼女の理系志向は、物知りの彼女の知的志向がそうさせるのであろう。
彼女には小説家の資質があると思う。博識であり、好奇心旺盛であるという点である。
もし、彼女に久保愛程度の文章力があれば、どれほど面白いP会報の文章が読めるだろうか。
月見が終わり、歩ちゃんが班分けのために敷かれた青いシートから出ていく時に、私は彼女の草履を揃えた。
「木下藤吉郎が、お市の方にするがごとく」などと言ったが、そういう事をするのが、私の役目のようにも思えた。そう、彼女は、アルデバラン恒星系第二惑星テオリアから来たお姫様なのだ。
我々は、彼女の放つ“みどりパワー”に籠絡され、そのしもべと化している。そう考えれば面白いではないか。
撮影タイムの時に、眩しい光が彼女を襲った。しかし、彼女は逆光に耐えて、我々に笑顔を送り続けた。
そのひたむきな優しさを、我々はたたえねばならないであろう。
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撮影/山野麦文
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日が代わって10月4日、寄合歩バースディ・イベントが行なわれた。
このとき、「お客さんの15歳の時のことを聞く」コーナーがあった。
意外なことに、SKiの客にしては恋愛の話題が多かった。それを興味深そうに歩ちゃんは聞いていた。
一見すると、寄合歩という少女には恋愛感情が無いように私には思う。
私にも実はそういったことは学生時代には全く無く、その点で共感を覚えていたのだが、彼女も今年は高校生。進学先で素敵な恋に巡り合い、その人生観を一変させるのであろうか。
15歳は“初陣”の歳である。高校進学と言う「戦争」もそうだが、人生の方向を決めるに当たって重要な歳である。
どうか悔いの無いように、歩ちゃんには頑張ってほしい。
当日の服装は、シャツにパンツというラフな組み合わせだった。
ただ、色の組み合わせが少し大人っぽかったような気がする。髪を後ろで一本しばりにしていたのを、この日は下ろしていた。「真夏の祭典」の時から見られる髪型である。
学校では「男子から女に思われていない」という。また「男子は女の先生に抱きついたりして、子供だ」という。
総じて、彼女の通っている学校は“茶髪もピアスも片手で数えるほどしかいない”平和な学校なのであろう。
そんな良い環境で、彼女のすばらしい人間性が温存されていることを思えば、それはそれで素晴らしいことなのだろう。
SKiは、正統派アイドルの殿堂のように思われているが、現実には多少の違いがある。
寄合歩のようなメンバーは、いろいろ遊べるキャラクターとしてファンのいたずら心をくすぐるに違いない。
ファンさんの用意してきた“◯×質問”のときも、彼女はいやがらずにやってくれた。その答えるしぐさが、とても良かった。
これが例えば伊藤嘉代子だったとしたら、とても出来ない芸当であろうし、かたくなな川野朋美だったら拒まれたことであろう。
こうしたことから言えば、彼女は、今後のSKiにとってなくてはならない存在になるはずだと思う。
9月23日の『渚に消えた初恋』コンサートで、彼女は初めて欠席した。
理由が「学校の事情」ということだそうだ。彼女の人生が大きく動き始めたことを感じさせる。
そういう歯車の軋みを感じつつ、私は一推しのいないエミナースで「歩ちゃん」コールを続けた。
いないメンバーの名前を連呼することは、“だめなひと”の行為であると言われるが、私は、不在者の席に影膳を据えるのと同じような気持ちで、彼女の名前を連呼した。
今後も高校受験の関係で公演を欠席することが増えるであろうが、そのときでも必死で人生への関門へと走り続ける歩ちゃんを応援する意味で、彼女のいないステージへ、コールを送りたいと思う。
話は、登戸の河原に戻るが、花火が天空を彩り、風船が、わずかな星の光に反応して光る中、私は、少し急ぎ足で現場を離れた。
そして、代々木へ向かい、おにゃん子クラブのラジカセ・コンサートに参加した。
そのコンサートの輪の中で、現在進行形でSKiというアイドルを追いかけることの出来る、自分の身の上を感謝した。
そして、来年も、再来年も、寄合歩と言う少女が渋谷公会堂のステージで、卒業の花束を受け取るその日まで、ともに貴重な時間を共有出来る喜びを大切にしたいと思った…。
最後に、この稿の『春野菜の少女』という題名は、当初『こちら新宿3丁目』本誌に投稿した原稿のものだった。ところが諸般の事情により、発行が延期され続けたため、今回、時期を失ったとは思うが、寄合歩への思いをより正確に伝えたいと思い、この題名を再び用いた。
彼女には、真夏の高原で収穫された、無農薬・有機肥料栽培の緑黄色野菜を、とれたてのまま丸かじりしたような爽快感がある。健康的でありながら、とても甘いキャベツのようなものだと思う。
そんな彼女の良さを伝えたいために、私は、このような題名をつけた。
今後とも、私がこのような原稿を投稿する際には、この題名を使用すると思われるので、覚えていただければ幸いである。
以上、長くなったが、歩ちゃんの15歳の誕生日と、無事、高校進学出来ることを祈って、ひとまず筆を置きたいと思う。
《お詫び》
この『春野菜の少女』の投稿をいただいたのは、昨年の秋ごろでした。
そのために内容的に、発行時期においてずれを生じる結果となってしまい、筆者のSKIノベライズ委員会並びに、この記事を楽しみにしていただいた読者の皆様、そして主人公の寄合歩さんに大変ご迷惑をおかけいたしましたことを、心よりお詫び申し上げます。
MbC編集発行人・山野麦文
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