いらっしゃいませ  


 あれは忘れもしない10月の野音のこと、美雪ちゃんはなぜか涙していた。「終章」の時、私はちょうど近くだったが、一生懸命、笑顔を見せようとしているのが分かる。そして、その表情には「さようなら」の意味が見てとれた。あくまで直感とはいえ、ショックだった。いつかのコンサートで「頭が痛くて泣いてしまった」ことがあったが、そう自分に思いこませなければいられなかった。

 翌月の「演劇歌謡祭」では、既に劇の途中から涙を見せていた。歌のコーナーも終盤になり「君だけの道」、もはや歌えるという状態とは言えない。動揺する私。どうしたらいいのかわからない。いや、そんな時に何を考えられるというのだろう。ひたすら見つめ、祈るような気持ちだった。最後に全員で「明日への勇気」。この時、私の正面に美雪ちゃんが立った。そして、あの時と同じ表情が…。

 今思うと、美雪ちゃんは「さようなら」と同時に「ありがとう」とも心の中で言っていたのではないかと。そして、涙ながらも精一杯の笑顔を私たちに見せてくれたのです。結果的に、コンサート出演はこれが最後だったし、きっとわかっていたのでしょう。

 そうした美雪ちゃんの気持ちに応えるため、ミニコミを作っているわけです。私たちの想いが少しでも伝わればいいなと思います。

 いつまでも「松本美雪」という女の子のことを、心のどこかにおいて、ふと思い出した時に微笑む。そんな存在でありつづけるような気がします。

[夢野 雫]



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