こまばへの道


あなたがいるから ここにいる(1)

 私がSKiとはじめて出会ったのは、今から3年以上も前、母校・早稲田大学の学祭のステージだった。その頃までの私は、アイドルなんてものには全く興味がなく、だからその日《制服向上委員会》をたまたま観た時にしても、ただ「変な名前だなぁ。一体、何をやってるグループだろう?」と思ったくらいのものだった。これは、それから少したった頃、〈ヤングサンデー〉のグラビアで彼女たちを見た時も同様で、宮本里枝子の可愛さはちょっと印象に残ったものの、特に興味をひかれるでもなく、何をやっているグループなのかも相変わらず理解できないままだった。私がようやく、彼女たちがアイドル歌手であることを知ったのは、それからさらに1ヶ月ほどたった頃、読売新聞の芸能欄に載った“笑顔を振りまく制服向上委員会”とか何とかいう記事を読んでからのことである。

 そして、その年(平成5年)3月初め頃のこと。当時、私は広告制作会社に勤めていて、スポーツ用品のカタログなども手がけていたのだが、それに関連して、仕事の打ち合わせで印刷会社の営業マンと話していたら、突然SKiのことが話題になったのだった。営業マン氏曰く、「90年の〈日本卓球〉のカタログでモデルになった子(藍田真潮)が、今度《制服向上委員会》というグループでデビューすることになったよ。」とのこと。私も、これにはちょっと驚いて、「へぇー、あのグループの中にいたのか…。じゃぁ、今度何かで出てきたら、じっくり見ることにしよう。」とか、何となしに思い始めた。

 それから少したった4月の初め、新宿のアルタでSKiのイベントがあるのを何かの雑誌で見つけた私は、ちょうどヒマだったこともあって、ちょいと出掛けてみようという気になった。軽い気分で新宿へ向かい、アルタの前に着くと、そこではゆかりちゃんと菜々ちゃん[もちろん、当時は名前など知らない]がビラ配りをしていた。私は「面白いことをしてるなぁ」とか思いながら見ていたが、道行く人々などはあまり関心がない様子だった。私がビラを受け取りながら「あのー…、これ一体、何するんですか?」と恐る恐る聞くと、菜々ちゃんは「イベントやってるんです。握手会とかあるんで来てください。」と言った。ゆかりちゃんは、ただ横で黙ったまま、目をキョロキョロさせていた(笑)。よくわからないので、近くにいた係の人(阪口さんだったと思う)に改めて聞くと、CDを買った人には〈握手券〉なるものが配布されるとのことだった。それまで、アイドルのイベントなど全然観たことがなかった私は、なんだか気恥ずかしくなってきてしまい、「くだらん、帰るか…」と一度は思ったりもしたのだが、好奇心もまた押さえきれず、結局迷った末に『制服宣言』を買ってしまった。

 少したって、指定された時間に会場の前に行くと、あたりには異様な風体の男たちがあふれていた。この時は本当に「うわぁ、マイッタな」という感じで、私など列に並びながら、本気で後悔し始めてしまった。それでもガマンガマンと、自分に言い聞かせながら待ち続けていると、やがて順番が来て奥の扉が開いた。

 すると、そこには… CDジャケットなどで見るよりずっと可愛い女の子たちがいっぱい並んでいた!! 私は、もし真潮ちゃんがいたら声でもかけてみようかと思っていたのだが、実際は頭に血が昇ってそれどころではなく、意識モーロー状態のまま握手を終え、そこを通り過ぎていた。そしてこの瞬間、私の中では何かがブツリと音をたてて切れてしまったのだった(笑)。

 それからというもの、私の生活は嘘のように変わってしまった。とにかく、毎日がSKi一色となってしまったのである。毎月の《制服の日ファッションコンサート》は、私の最大の楽しみとなった。

 その頃のSKiのステージは、今とは違う厳かな雰囲気だったが、清楚な魅力にあふれていて、見るたびに新鮮な感動があった。メンバーの緊張した表情,フリを間違えて顔を曇らせる一瞬,ぎこちない笑顔…。そんなすべてが可愛くて、どこかはかなくて、見とれてしまうほどに綺麗だった。忘れていた美しさが、そこにはあった。

 やがて、6,7月の芝青年館公演の頃から、少しずつ雰囲気は変わり始めたが、それでもまだ気になるほどのものでもなかった。むしろ、今考えてみると、“清く正しく美しい”一方で、適度にくだけていて楽しめたという点では、そのあたりの頃のステージがSKiとしては一番理想に近かったのではないか、という気さえする。事実、この年の5〜8月くらいの間は、観客動員数も毎月ほとんど倍々くらいで増え続けていった[←あとは、3年近くずっと同じですけど(笑)]。

 また、その頃のステージでは、メンバーがブルマを着て行なう《ペケ体操》などのコーナーがあったほか、《公開生徒総会》では“性の問題”が話し合われたりもした。純情そうな少女たちにキワドイことをさせたり、言わせたりして、おたく共のスケベ心を満足させてやろうという、スタッフサイドの意図がミエミエだった。まさか、アイドルのコンサートでこんなやりとりを聞くとは思ってもみなかっただけに、この時は本当に衝撃で脳ミソがでんぐり返ってしまったのだが、しかし、彼女らのひたむきさと新鮮な魅力は、そんな周囲の思惑さえも軽く吹っ飛ばしてしまっていた。例えば、その「性について」の公開生徒総会での、藍田真潮と前田厚子のやりとりは次のようなものであった。

  真潮「厚子ちゃんは…、お兄ちゃんいるんだよね。“近親相姦”をどう思いますか?」
  厚子「絶対イヤですっ! 死んだ方がマシです!」
  真潮「…死んじゃうんですか?」
  厚子「死ぬのは怖いけど…でも、それと同じくらいにイヤです…。」

 2人の(とくに前田の)表情は、真剣そのものだった。まさか、アイドルのコンサートでこんなクソ真面目なやりとりを聞くとは思ってもいなかっただけに、この時などは本当に、衝撃で脳ミソがでんぐり返ってしまった。

 そして私は、そんなステージを見つめつつ、このグループのために残る人生の全てを捧げよう、と密かに決心していたのだった(笑)。

    (たぶん)つづく…。

[東京都/桂木 明]


vol.4目次